【第85回】 食環境の現状(64)

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食文化の豆知識 85 [食文化の現状64]

 

食材は季節毎に旬があり、特に四季がはっきりしている日本では、その時々の新鮮な食材

が出回ります。春には芽吹きのものが、夏には太陽をしっかりと受けとめるものが、秋に

は盛りたくさんの実りの恵みが、そして冬もどっしりとした頼もしい食材が楽しめます。

ただ、考えてみると、四季の移ろいで変化していく食材は、殆どが野菜・果物類であって、

肉類に季節を感じることはまずありません。新子や鮎、秋刀魚などの魚介類は一応の季節

を感じさせてくれますが、畜産系にいたっては、通年の印象に変化はありません。逆に言

えば、ほぼ安定している食材といえるでしょう。よって価格も安定している。だからでし

ょうか。米国では収入の低い層ほど、肉類が食事に占める割合が多いとか。肉が贅沢であ

った時代が記憶に刻まれている我が身としては、一種の驚きを隠せませんが、なるほどな、

と妙に納得してしまいました。野菜は気象条件による価格変動が避けられないうえに、調

理に手間がかかります。それなのに3種類もの野菜料理を作っても、メインディッシュに

はなり得ないのが辛いところで、その点、肉は焼いただけで立派な主菜になり、付け合わ

せに野菜をほんの少しつければ、その1品だけで食卓が成り立ちます。ファストフードの

ハンバーガーも安価な肉で、はい出来上がり。それなりに食べられる。でもそのような食

事を続ければ当然に野菜摂取不足に陥り、肥満や中性脂肪過多や動脈硬化が待ち受けてい

ます。

 

本当に、野菜類を潤沢に摂取するには努力と手間が欠かせません。最も簡単な野菜料理で

ある生野菜サラダをばりばりと食べても、到底一日の奨励摂取量350gには及びません

し、それだけの生野菜は食べきれない。蒸すか煮るか茹でるかするのが一番、量を摂取し

やすいのですが、それがなかなかに難しい。と何やら愚痴めいてきましたが、毎日の食卓

に何種類かの野菜料理を登場させる大変さは、台所を預かる側の方はお分かりだと思いま

す。で、簡単に野菜を摂取できる野菜ジュースや青汁が売れるわけです。模範的な食生活

はバランスにつきるといっても過言ではありません。食を提供するレストランや宿泊施設

も、是非、バランスの取れた料理を届けて欲しい。先日訪問した日本海を望む老舗の宿で

いただいた夕食は、新鮮な魚のオンパレードで舌鼓を打ったのですが、野菜料理が殆ど見

受けられませんでした。野菜を旨く調理し、輝く1品に仕立てることの出来る料理人こそ

が、真の料理人といえるのかもしれません。

 

               24年8月4日  間島万梨子 食生活アドバイザー

 

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