【第64回】 [ 食環境の現状(43) ]

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食文化の豆知識  64 [食環境の現状 43] 

 

秋の味覚の先陣を切る秋刀魚が、当初一匹300円という高値がついて驚かされました

が、ここにきて100円前後で安定しています。これで思う存分、脂の乗った秋刀魚の

塩焼きが楽しめそうです。確かに、魚は海流を南下したり、北上したりして日本の海域

を泳いでいるので、収穫できる時期が多少遅れたりするのは当然なのかもしれません。

でも最初の秋刀魚の漁獲量の少なさによる高値をみたとき、正直、ひやっとして北海道

旅行時のことを思い出しました。

 

利尻、礼文島を回遊したときのことです。鰊についてガイドさんの説明を聞きました。

ご存じのように、鰊は北海道の小樽地区や利尻などで1897年の最盛期には、約10

0万トンにものぼる漁獲量を誇り、地域に莫大な富をもたらしたといいます。卵の数の

子は高値で世に出回りました。身の方は捨てるか肥料に回されたとか。その繁栄の名残

ともいえる、広大なにしん御殿が残されています。でも肝心の鰊は今では見る影もない

漁獲量に成り果てています。現在私たちが口にする数の子は、殆どがカナダ・アラスカ・

ロシア産です。漁獲量減少の理由としては諸説あるようですが、地元出身の女性ガイド

さんは、“ずばり乱獲が原因です”と、言い切りました。それも悔しそうな口調で。

目に余る乱獲によって、後世の地域の糧を断ち切ってしまった罪は大きいと言うのです。

何とも複雑な気持ちになりました。というのは、乱獲は現在でも存在するのではないか

と。現在、カナダではほぼ完璧に漁獲量の調整が行われ、その結果、豊かな魚場が実り、

経済の繁栄の一貫を支えています。日本でも、鮎やカニなど限られた魚種の漁獲規制は

ありますが、乱獲を押さえる有効な手だてはなされていません。

 

限りある資源の枯渇を防ぐためにも、効率よくシステム化された漁業の確立が急がれま

す。日本を巡る水産資源は国民の宝です。昔から魚が日本人の命を支えてきました。そ

の貴重な資源を漁業従事者の頑張りに頼るだけでは、未来の資源枯渇が危ぶまれます。

中国をはじめとする他国も一人当たりの魚摂取量を増やしている現状下、従来のギャン

ブル的要素を帯びた漁獲から、養殖事業の拡大や厳格な資源管理の元での安定したビジ

ネス漁業への転換が必至ではないでしょうか。

 

22年11月2日 P&Cネットワーク 間島万梨子  食生活アドバイザー 

 

 

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