【第94回】 食環境の現状(73)

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食文化の豆知識 94 [食文化の現状73]

知人が病院に入院しました。あいにくと一般病室が空いておらず、個室に入りました。あ

まり協調性があるとはいえないタイプなので、多少、出費はかさんでも結果的には個室で

よかったようです。私も基本的に入院病室は個室であるべきだと思っています。入院する

ということは、手術を受けるか、重篤な症状があるとかの場合であって、健康な状態で入

るはずはないのですから、静かで落ち着く環境が求められます。相部屋の方がにぎやかで

安心できるという声も聞かれますが、やはりストレスは発生します。

その病院に設置してあるご意見ノートなるものを見てみました。苦情も謝意もオープンに

掲載しているのは感心しましたが、苦情のほとんどが相部屋での出来事に関することでし

た。他患者への見舞客がうるさい、傍若無人に振る舞う、荷物置き場が少ない、などの苦

情が多く寄せられていました。根っこは、騒音と狭さにあるようで、その二つが解決でき

るのはやはり、個室、ということになるのでしょうか。病院は英語ではホスピタル。そし

てそれを語源とするホスピタリテイは“親切なもてなし”を意味します。病いと院とで成

り立つ日本語と比べ、そこには、病院本来の役目が何であるかを示唆しているような気が

します。病院はただ治療するところではなく、身心ともに元気になってもらう場所である

べきであって、それには“親切なもてなし”がいかに大切かが問われます。

病院側の論理ではなく、患者側に立った治療や対応は、まだまだというのが実感です。

知人が入院した病院は数百もの病床を持つ大病院なのに、入院患者の家族に対する配慮が

著しく欠けていました。例えば駐車場。平均2週間以上、長くて1ヶ月に及ぶ入院生活に

足繁く通う家族も、一般外来と同様に時間払いなのです。何らかの用事で一旦出ると、そ

こで精算。帰るとまた新たな精算が待っています。買いものもしにくいし、荷物を家に取

りに帰るのも不便きわまりない。それに、強制撤去こそされませんが、午後7時30分に

は院内に“駐車場から出て行けコール”が流れます。何故、入院患者の家族用に10日契

約もしくは月極契約のスペースを作ってやらないのでしょう。そのシステムがあればどん

なに便利かを想像できないのは、まさにお役人的発想です。また院内のレストランが恐ろ

しくまずい。まずいのはかろうじて我慢できるにしても、午後5時30分がラストオーダ

ー、6時に閉店するのです。何故もっと美味しく提供できる民間の業者を選出できないの

でしょう。やり方によっては結構儲かるはずです。競わせたらいい。それにせめて8時く

らいまで空いていれば、見舞い客も家族もすこしはのんびりと夕食を取れるというもので

す。久々に病院なるものに、特に入院病棟なるものに接してみて、多くの改善すべき点が

目に付きました。要は、いかに相手側の立場に立って物事を考えられるかに尽きます。

病院経営者も、ホテル、旅館やレストランの経営マインドを学ぶべきだと痛感しました。

 

              25年5月7日  間島万梨子 食生活アドバイザー

 

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