【第115回】 食環境の現状(94)現代の豊かさ

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食文化の豆知識 115 [食文化の現状94 現代の豊かさ]

 

昔を懐かしむ声は、いつの時代でもあるものです。特に昭和は、今でももっとも人口比率が高い団塊世代が青春の真っただ中を生きた時代なので、昭和レトロとして根強い人気を誇っています。映画も昭和を扱ったものは、安定した興行成績が得られるようです。何といっても団塊世代が懐かしがって観にきてくれるからです。歌も昭和の流行曲はすたれることなく歌い継がれています。確かに、多くの人が中流意識を持ち、物資には恵まれなくても、連帯感に満ちていました。その頃を懐かしむ気持ちはよくわかります。でも、昔はよかったの連呼には、多少の違和感を覚えます。

 

道徳や情緒面の劣化を危惧する声もあります。これは一部、同意する面もありますが、マナーや衛生面では今の方が断然、優れています。特に水回りに関しては、昭和になど戻りたくもありません。乗り物もそうです。ばい煙をまき散らしながら走る蒸気機関車は、髪の中に黒い煤のようなものが入り込んで大変でした。今の新幹線や各路線電車の快適さには、関係各社に頭が下がります。

 

食事もそうです。高血圧や肥満などの生活習慣病が増えると、決まって和食回帰が叫ばれます。“健康の源である伝統的な日本食を食べましょう”の声は色々な媒体から聞こえてきます。でもちょっと待ってほしい。日本食を形成する食材で、今や日本だけでまかなえる食材はコメだけではないのかと。魚介類も輸入物なくしてスーパーマーケットの売り場は埋まりません。醤油味噌、豆腐、納豆の主原料である大豆や小麦の自給率は食料品需要でわずか10%台。多くを輸入に頼っています。また、昔の食事スタイルが健康に貢献していたとみるのも早計です。塩摂取過剰、栄養不良、栄養失調がもたらす弊害は現在の比ではありません。現在の日本の食の豊かさに感謝して、食べ過ぎと偏りにさえ気を付ければ、昔よりはるかに健康的でいられます。

 

昭和を思い出すとき、懐かしい場面、懐かしい体験が湧き出てきます。今と比べると格段に不便だったのに、昭和の時代の方が今より不平不満が少なかったような気がするのは、何故なのか、ポイントはそこにありそうです。

 

  平成27年2月5日  間島万梨子 食生活アドバイザー

 

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