顧客満足の複雑さ 170(自宅にないものの提供)

      顧客満足の複雑さ170「自宅に無いものの提供」  

住宅の写真本を見るのが好きだ。これから家を建てる計画など全く無いが、間取りやそれぞれの内装を見るのは楽しい。具体的に参考にしたい、などという実利を抜きにしても、眼の保養になるので、気分転換には最適なのだ。そこに載っているのは一様に広々としたすっきり空間で、調度品や雑貨が少ない。いわゆる無個性ともいえるインテリアが多い。中には、にぎやかな装飾に囲まれた、楽しそうな部屋をもつ家もあるが、大体が落ち着いた雰囲気の部屋だ。見ていて、多くがまさしくホテルライクなインテリアなのだと気づいた。特に水回りはモノトーンが好まれ、必要以外の装飾がない。キッチンも無駄なものが出ていない。ほとんどの小物は収納されている。トイレ・洗面もすっきりとした色彩で統一され、トイレマットや便座カバー、化粧品などは一切見られず、一輪の花だけがその場所の色を制する、という心憎さだ。こんな生活感が無い内装ではかえって落ち着かないのでは、との危惧は杞憂に終わりそうで、シンプルインテリアライフはこれから家を建てる若い人のバイブルらしい。日々、あれやこれや雑多なものに囲まれている身にとっては、あこがれに終わってしまうが、これは確かなブームであり、傾向であるようだ。ホテルライク志向は今後ますます高まっていくだろう。 

ならば、これからの宿泊施設は高度な付加価値が求められよう。昔から、ホテル・旅館の売りは、非日常空間の提供にあるからだ。広々とした温浴施設や美しい料理の数々は自宅では経験しにくいので大きな魅力になり得るが、肝心の部屋で惹きつけるとなると、なかなか難しい時代に入る。自宅でベッドにこだわり、寝具にこだわる層はこれからも増え続けるだろうし、抜群の収納力でもってリビングも水回りも、すっきりとシンプルにまとめられた、ホテル並みの環境下で住む人達たちが増えている。わが身のことになるが、中学生のときの家族旅行で、いわゆるクラシックホテルに泊めてもらったことがある。生まれて初めてのベッドに体が沈みそうなソファ、凝った内装、すべてが経験したことのない洋式の豪華さに、高揚感を覚えたのを記憶している。もしも今、再訪したならその時のように感動できるだろうか。そうなのだ。人が非日常空間に惹きつけられるのは古今変わらない。ならば逆手の発想もあり得る。我々が失った古き良き日本文化を結集した奥ゆかしい部屋。欄間や床の間、広い縁側に障子-襖のある部屋。それらはもはや旅館にしか存在しそうにない。昭和レトロを再現した部屋も一興となる。人は現在から過去へ、または未来へ遊びたがる。それなら徹底して、人々の意識下にある願望に応えていくことも求められよう。                          2023年2月1日 間島

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