顧客満足の複雑さ111「民泊の行方」 間島
本年6月に、民泊新法(住宅宿泊事業法)が施行されるが、それを大きなビジネスチャンスに結びつけようとする動きがある一方で、天下の悪法と捉える意見もあり、施行前からすでに、市場はざわめいている。この新法成立の理由は概ねはっきりとしている。インバウンドの増加にともなって不足が予測される宿泊施設の代替確保と、全国で増えつつある空き家・空き室の有効利用だろう。加えて、すでに横行しているヤミ民泊の規制目的もある。しかし、あくまで個人の住宅を観光客に貸し出してもらうのが、世界的に見ても民泊の本質であるはずが、結局のところ、不動産業界や賃貸住宅事業者とIT仲介業者が利点を得るのだろうし、住宅宿泊管理業者という新しいベンチャービジネスを生みだしたに過ぎない。それによる経済や雇用拡大効果もあろうが、いずれにしても、一般国民がこの新法によって恩恵を受け得るとは到底思えない。
考えてみても分かる。現在住んでいる自宅に見知らぬ観光客を泊めたい人が多くいるとは思えないし、民泊向きの別荘やセカンドハウスや別宅を所有している人もごく少数派だろう。もっとも、相続したものの現在は住んでいない家屋を所有している人にとっては副収入を得る機会かもしれない。それとても立地によっては周辺住民とのトラブルを抱えるリスクを負う覚悟が要る。また、民泊新法を受けて、収入を確保するために新たに民泊対応可能な住宅を手に入れたとしても、宿泊上限が一年間で180日以下と決められているので、投資額のスムーズな回収が可能だろうか。余り良い儲け話ではない。だからこの新法は、ヤミ民泊に若干の歯止めをかける意味で多少は有効である、くらいにとらえていいのかもしれない。救いは、各自治体の裁量に、規制の部分をある程度まかせ得るという点だろう。
先日のテレビで、ベンチャー企業の住宅管理業者が、地方の農家の人達を集めて自宅での民泊を勧めるという番組があった。数名の中でひとりの中年女性が手を上げ、実際に欧米人の男性を民泊客として迎える、という内容だった。一人暮らしの、人の良さそうな女性の“楽しかった。これから、民泊を積極的に考えたい”の言葉で結ばれていた。あくまでカメラが入り、筋立てが出来た中での構成なので、今後の状態を担保するものではなかったが、どちらかと言えば性善説を是とする日本人の国民性の危うさを感じざるを得なかった。そしてこのほど、民泊利用のアパートで日本女性が殺害されたとのニュースが流れた。民泊していた米国籍男性が逮捕され、取り調べ中とのことだ。二人はSNSで知り合って、男の民泊先で会ったらしい。この事件が民泊に対する大きな警告でないことを祈るしかない。
2018年3月1日