顧客満足の複雑さ 175(宿泊施設の役割の広がり)

       顧客満足の複雑さ175「宿泊施設の役割の広がり」 

以前にも書いたと思うが、実際に住まいとして機能している住宅インテリアの本を観るのが好きだ。何よりの良き気分転換になる。それも間取り紹介があるのが望ましい。それぞれの施工会社が自社の建築例を、オーナーへの何らかの見返り条件を加味することで掲載しているのだと思うが、今のトレンドが見えてきて興味深い。リビングもキッチンも一様にモノトーン色でまとめられ、水回りもすっきりとしている。本の傾向にもよるが、敷地面積200平米以上、建坪120平米以上の住宅を掲載しているものが多い。日本では十分な広さの住宅といえるだろう。ただそれらの間取りを見て違和感を感じるのは、いわゆるゲストルームが無い住宅が主流を占めているということだ。長野県の800平米の土地に大きな住まいを構えるA宅にも、東京郊外の建坪180平米もあるB宅にも、広いリビングルームや夫婦のベッドルーム、子供部屋はあるものの、和室を含むゲストルームが無かった。親族や友人が泊まることを想定していないのだろうか。そこに徹底した個人主義を感じた。そんな中、和室やゲストルームが用意されている希少な間取りを見ると、ほっとしてなんだか、うれしくなる。そこには,精神的なゆとりと愛が感じられるから、というのはセンチメンタリズムすぎるだろうか。 

アメリカなどの豪邸は何室のゲスト用ベッドルームがあるかが、豪邸たる証明となる。それらが埋まったときのにぎわいを想像すると楽しい。世界のどの国でも多分、住宅の大小にかかわらず、ゲストが気楽に泊まっていく部屋は用意されている。狭ければ雑魚寝でもOKで、主人側も客人もどちらも気にしない、という風景が浮かんでくる。昔の日本家屋にも、客人が遠慮なく泊まれる二間続きの和室がある家が多かったものだが、今のトレンドはいかに個々人が快適に住めるか、に重点が置かれ、そこに他者を受け入れるスペースは無い。それが当然なのだといわれれば、そうなのだろう。たとえ親しい知人でも、人を泊めるとなると神経を使う、という人は多い。親族や知人友人と寝食を共にして楽しみたいときには、旅館やホテルを利用するのが、お互いのストレスが少なくてすむ、という声を聞いたことがある。なるほど である。今後も宿泊施設の役割のひとつとなり得るだろう。場の提供とともに、食の提供という観点から見れば、役割はさらに増えてくる。知人の長男は2型糖尿病で、日常の食事療法に気を使った生活をされている。家族も持っておられ、奥方の努力は大変なものらしい。外食や旅行時の食事も、ただ楽しむというわけにもいかない。こういうケースも、施設側に糖尿病用の食事が用意されているとうれしいだろうに、と思う。他の人と同じく、美しい見映えの数々の料理を安心して楽しめる幸福によって、当人のストレスは多分、大きく軽減される。勿論、そこには専門家のアドバイスは必要だが、これも宿泊施設の役割のひとつになってほしい。 

     2023年7月1日  間島

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