顧客満足の複雑さ168(食品偽装犯罪のスケール)

      顧客満足の複雑さ168「食品偽装犯罪のスケール」  

先日テレビで、フランスのドキュメント番組を放映していた。番組名は「偽装大国ヨーロッパ」。そういえば日本でも食品偽装が2013年に社会問題化したことがあった。大手ホテルを皮切りに出るわ出るわ、一流ホテルやレストランが軒並みに摘発された。主に産地や原材料の偽装で、バナメイエビを芝エビに、牛脂注入混合肉を牛肉に、ブラックタイガーを車エビに、カナダ産ボタンエビを北海道産に、即席パンを自家製パンに偽って販売した。全国各地で偽装が発覚し連日紙面をにぎわしたことが、まだ脳裏に新しい。その前の2007年には期限切れ商品の偽装が続発。製菓会社や伊勢の銘菓、洋菓子店など、消費期限や賞味期限の偽装が相次いだ。極めつけは、老舗料亭の産地偽装と客の食べ残し再提供事件だろうか。テレビで面白おかしく報道され、いささか気の毒に思えたほどの大騒ぎぶりではあった。その時点で各社各店大きなお灸をすえられたはずだが、のど元過ぎればで、またいつ起こっても不思議ではない犯罪の罠が、食品偽装にはある。 

で、「偽装大国ヨーロッパ」を興味深く観たのだが、そのスケールの大きさは驚愕ものだった。馬肉を牛肉に混ぜての偽装販売がアイルランドで見つかったのを皮切りに、シンガポール・香港でも発覚。この世界的規模の偽装はオランダが舞台で、1年で200万ユーロの取引が行われたという。またフランスではポーランド産の牛肉を材料として使用したハンバーグに偽装が発覚。安価なポーランド産牛肉には、病気で死んだ牛など質の悪い牛肉を加工して高く売るのが常態化していた。この会社の売り上げは2021年度で60億ユーロに達していた。低価格の偽装牛肉を全ヨーロッパに拠出していたのだ。イタリアではオリーブオイルの偽装が後を絶たず、質の悪いオイルがエキストラバージンオイルとして稼ぎ出す額は年間12億ユーロにのぼるという。偽装オイルのメーカーはゆうれい企業で、2年間の調査の結果、トルコから菜種油を輸入し、オリーブオイル製造時に混入させていたことが判明したらしい。

ユーロポール(欧州刑事警察機構)も手をこまねいているわけでもなく摘発に熱心だが、ヨーロッパの食品偽装にはマフィアも参入して大陸全体を相手に商売している上に、摘発されても食品偽装は刑罰が軽いので、まさにもぐらたたき状態だという。食品偽装は儲かるのだ。なんだか、日本の偽装事件がかわいく思えてきた。問題なのは健康被害をもたらすケースだろう。スペインで摘発された、マグロに硝酸塩を注入し赤くする偽装犯罪では、2017年に4000件の健康被害が出た。産地を偽ったものを食べても健康を害することはまず無いだろうが、偽装手口がエスカレートすると、危険性も増す。さてはて、どうすれば防御できるのか、答えは出にくい。食べてすぐにわかるようでは、偽装犯罪は成立しない。商取引は信頼が基本だ。その点でいえば、果樹園や農地から果実や農作物を大量に盗んで知らぬ顔で市場に販売する犯罪は、最も卑しい犯罪のひとつといえるだろう。そのスケールも大きくなっているのが気になる。 

2022年12月1日 間島

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