顧客満足の複雑さ164(養殖事業への挑戦)

      顧客満足の複雑さ164「養殖事業への挑戦」  

テレビのワイドショーや、お笑芸人が主流のいわゆる仲間内冗談連発バラエティー番組を見なくなって久しいが、一般人取材を中心に構成された番組には、興味を惹かれるものもある。そこには、受け狙いのあざとさが無く、日常生活への真摯な姿勢をかいまみることができるからだ。そんな番組の中で、日本の漁港を回り、局ディレクターが、漁師さんに”おいしい魚を食べさせてもらう“という、ある意味、厚かましい番組がある。漁師さんたちのサービス精神に助けられて、おいしい魚にありつける確率は非常に高い。皆、親切で優しい。ただ、漁港によって、規模や漁獲量の差異が大きいと感じることが多い。盛んな漁港はやはり元気さが違う。              

そこで日本の漁業生産量が気になった。1984年の漁業生産量1282万トンをピークとして年々減少し、2016年には436万トンと3分の1にまで減少している。その後は海洋状況によって微増または微減を繰り返す、といった状況か。その結果、当然に輸入量が増え、2016年には44%を輸入に頼っている。1960年代は113%の自給率で日本は魚介類の輸出国だったのにもかかわらずだ。最大の要因は国内外を含む乱獲による資源量の減少で、他国も危機感をつのらせ、イギリスやカナダでは大規模漁獲制限を設けている。その点では日本はまだまだ消極的ではある。世界の漁業消費量は増大を続け、今や争奪戦が始まろうとしている中、自給率をあげる大切さは自明の理でもある。求められるべき政策の要は養殖漁業拡大への転換だ。現在、漁業生産量の20%強が養殖関連生産になっている。魚種によっては養殖の占める割合が自然漁業より高いものも多い。真鯛では81%、クロマグロは61%、ブリ・ハマチ種で57%が養殖もので、トラフグやヒラメ、シマアジなどが続く。また、牡蠣はご存知、養殖が主体で広島県が60%以上の水揚げを誇っているが、漁業全体の活性化を目指すには、ほど遠いのが現状ではある。農林水産省の思い切った政策は期待できそうにない。

そこに朗報が入ってきた。魚介類の育成を陸上施設で行う「陸上養殖」に異業種からの参入が相次いでいるという。関西電力がエビの陸上養殖に取り組んでいることは以前にも書いたが、いよいよエビの飼育が始まるらしい。年間80トンの生産を見込む。他、三菱商事がサーモン養殖、日揮HDがサバの養殖、JR西日本がカワハギ養殖など、それぞれが自社のIT技術を生かしての挑戦だ。陸上養殖は飼育管理がしやすいため生産性の向上がのぞめるのに加え、人が行うのは軽作業で済むので人材確保もしやすい。まだまだ試行錯誤は続くだろうが、市場拡大に多いに期待したい。近未来には漁業そのものの形態が変化していくかもしれない。

2022年8月1日  間島

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