顧客満足の複雑さ 103「労働生産性の憂鬱」

顧客満足の複雑さ 103「労働生産性の憂鬱」

日本の国内総生産は、アメリカ、中国に次いで世界第三位であり、資源に乏しい極東の島国としては奇跡的な経済規模だと率直に思う。それはひとえに、国民の勤勉さと探求心、それに忍耐力のなせる結果なのだろう。素晴らしい人達が日本を牽引してきた証であって、今後も盤石であってほしいと願わずにはおられない。世界の国々から見た日本は、豊かでうらやましい国なのだ。 

然しながら、昨今よく耳にする労働生産性となると、余り大きな顔もできない。国内総生産からはじき出される就業者一人当たりの労働生産性は、2015年度でOECD(経済開発協力機構)加盟35か国中22位で、欧米主要国には及ばないし、就業者1時間当たりの生産性も、20位と低め推移となっている。労働時間の長さや仕事の効率の悪さ、特化した高価値産業の不足などが理由としてあげられている。過労死という日本発の不名誉な現象も払しょくせねばなるまい。で、政府も労働時間の短縮をうながしたり、休日を増やすなどして労働生産性を向上させようとしているが、なかなか簡単にはいかない。日本独自の働き方を変えるのは時間がかかるだろう。逆に、効率化を進め商品の低価格化を実現したからこそ労働生産性が低いのだ、という説もあるほどだ。 

さて、一口に労働生産性と言っても、産業間で差異が生じている。日本の場合、製造業や建設業はここ数年、生産性を向上させているが、小売り飲食宿泊の分野となると、この数年でも0.7%しか上昇していない。パートの増加があっても効果は薄い。やはりお客様に直に接する仕事は効率第一とはいかず、どうしても人手を取られるので、一人当たりの生産性は低くなってしまう。売上上昇が見込める休日の増加をばねにして、労働生産性を高める工夫も望まれよう。言葉は良くないかもしれないが、要は、ゲストの満足度を低めることなく手を抜くという技が必要だ。

日本型旅館の場合は、しつらえやサービス体制を一部ホテル化することで確実に生産性は上がる。布団の上げ下ろし、食事時のつきっきりの接客、ユニフォームとしての着物etc、うまく省力化をはかる必要がある。ベッド採用、一部ビュッフェ化、着衣簡便なユニフォームへの転換だけでも労働時間が節約できる。スタッフ・ゲスト双方に不便さを強いる、いまだに残るドリンク内蔵のロック式冷蔵庫の廃止、部屋食の減少、それに関連するが、食事室はテーブル式がサービス側の手間を劇的に減らす(スリッパ並びに草履などの着脱の手間も要らない)。見渡せば、労働を軽くする材料はいくらでもある。従業員に過酷な労働を強いていては、一人一人のユニークな発想力を引き出すことも出来ない。ゲストのニーズは今や、至れりつくせりの濃厚接客ではないのだから、労働生産性をあげるチャンスでもある。もしくは、眺望か、料理か、環境か、設備かで、超付加価値を提供する見返りとして一泊二食最低でも4万円以上をいただいて、結果として労働生産性を上げるかだろう。 

                        2017年7月1日

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