【第96回】 食環境の現状(75)

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食文化の豆知識 96 [食文化の現状75]

 

先日テレビで、極寒の地に住む人々の生活を追った番組がありました。長い冬は零下20

度が当たり前に続く苛酷な地にあって、懸命に生きる姿には心を打たれました。暑がり寒

がりの勝手ものの我が身を深く反省した次第です。そこでは、トナカイが非常に大切な家

畜であり、現地の人が“トナカイなしでは私たちは到底生きてはいけません”と、その重

要性をしきりに話していました。とても大事に飼われていて、よく人になついてもいまし

た。目がくりっとして可愛い動物です。でもトナカイはペットではありません。物を運ん

だり、ソリを牽引する大きな役目を担っています。それに何より食料になる!かの地の人々

の日常食はトナカイの肉なのです。生肉が野菜不足を補い、その毛皮は様々な防寒用具に

形を変えていました。まさにトナカイは、その地の人々にとってはオールマイティーな存

在なのです。そのことはよく理解できるのですが、飼い主に頭をなぜてもらってすりすり

しているトナカイも、翌日には肉の切り身となって当然のように保存庫に置かれる。その

対比には少し驚きました。ただそこには部外者が、カワイソウに、と言う妙な情緒が入り

こむ隙などない現実がありました。

 

そのテレビを見て思い出したことがあります。子どもの頃によく食卓に載った鯨肉のこと

を。多分牛肉などよりはるかに安価だったのでしょう。ショウガ風味を効かせて甘辛く調

理されたクジラのソテーは度々登場しましたし、オデンにもコロという脂身が入っていま

した。栄養もあって安価な鯨肉は台所のお助け的役目を担っていたのだと思います。その

後、牛肉や豚肉、鶏肉などに押され、食卓からは姿を消していきました。何より捕鯨規制

が厳しくなったのです。捕鯨反対派は鯨のかしこさを反対の理由にあげています。あんなかしこい動物を食べるなんて!ということです。でも今は、鯨は増えすぎの傾向にあるら

しい。海の生態系を揺るがすかもしれません。和歌山県太地町のイルカ漁を告発する米国

のドキュメンタリー映画が話題を集めたことがありました。残酷な漁だとの批判の声が強

かったようです。日常にイルカを食べていた人々は戸惑ったことでしょう。

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先の愛らしいトナカイにしても、かしこいクジラやイルカにしても、それらを食する人々

に感謝の念があり、命をつなぐ役割を担ったのだとしたら、その食の形を異なる価値観で

批判するだけではなく、食と命について謙虚で厳かな心でもって再考してみてもいいので

はないでしょうか。食は本当に、国や地域によってそれぞれの習慣様式があるものなので

すから。

           25年7月4日  間島万梨子 食生活アドバイザー

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