顧客満足の複雑さ163「価値を認識する」
ほんの身近な些事ではあるが、自分にぴったりとくる歯ブラシを見つけるのはなかなか難しいものだ。で、いろいろと試して、ベターな状況で妥協している。そんな中、昨年訪れた宮城県の老舗旅館から未使用のままに持ち帰った歯ブラシを使ってみて驚いた。ブラシの固さ、密集具合が何とも使い勝手が良く、二週間使用してもどこもへたらない。ビジネスホテルで同じく未使用のままに持ち帰る歯ブラシは、二度ほどの使用でブラシ部分が無残にへたってしまってゴミ箱行きになる。この違いに、老舗旅館の矜持を見た思いがした。歯ブラシひとつに厳選された目利きがあり、誇りがある。この誠意を今さらながら、受け止めさせていただいた。宿泊価格が高いから当然だ、とは思わない。価格の重みを提供側が真摯にとらえていて、すべてに手を抜かないということだろう。たかが歯ブラシ、されど歯ブラシだ。
さて、能力という面からいうと、各分野で活躍している人だけに限らず、すべての人が独自のすぐれた力を有しているともいえるが、常人にはできない善行を地道に続けている人もいる。軽めの時代劇俳優とばかり思っていた人物が、長年にわたりアジアの孤児や障がい者の支援を続けていると知り、驚いたことがある。ただただ頭が下がる。それを売名行為だ、偽善だという向きもあるが、言わせておけばいい。いつの世にも、やっかみ者はいる。人気の高い世界的なアスリートをこきおろす人もいる。その人がどれだけの過酷な練習を積み重ねて栄光を手にしたのか、の想像力もない。これもほっておけばいい。そのアスリートは10年以上も東日本大震災で被害を受けた地域・人々に寄付を続けていると聞く。悪事はいずれバレる、というが善行も本人が望まないのにバレてしまうものなのだ。だから善行を知ったときには、第三者は黙ってこうべを垂れればよいだけのことだ。
ここにきて、インバウンド期待がにわかに高まりだしたが、テレビはいまだにインバウンド客減少の恨み節を流し続ける。売り上げが半減したままで青息吐息状態のホテルや観光地・街の盛り場の店を取り上げる。コロナ禍にあって売上拡大・笑いが止まらない企業や会社は取り上げることも無い。メディアほど不幸や不満が好きな業界も無いだろう。そもそもインバウンドが急激に伸び出してから10年にも満たない。2015年から急増して、2020年をピークとした場合、たかだか5年間強の享受に過ぎないのだ。それまでどのような営業をしていたのか、利益はどの程度であったのか、の掘り下げもなく、インバウンドの復活を願うだけの報道姿勢が目に付く。ある番組で、“国内客の旅行や飲食は富の分配だが、インバウンドのそれは富の増加なので、結果の値打ちが違う“といった発言を、聞いた。一瞬、旨いことを言う、と感心したが、大きな勘違いがある。富の分配そのものがスムーズに機能していない上に、分配できる富のボリュームが人口のわりに低いという現実が忘れ去られている。政治や行政に、真に国内需要を増やす政策立案の力が無いのだ。一部の業界重視等の政策は旅行分野においても見られるが、全体の需要喚起とそれに伴う富の分配まで考慮した政策はいまのところ見えてこない。
2022年7月1日 間島