顧客満足の複雑さ134「非常時における日本の国力と伝統回帰」
特定国の減少はあっても、中国人訪日客の圧倒的人数で、訪日観光客数はむしろ増加している現状に、関係者の安堵する顔が見られた矢先の衝撃だった。いわずもがな、中国発のコロナウイルス騒動だ。極めて深刻な状況がすぐに解決するとは思えないが、一日でも早く、終息に向かうことを願わずにおられない。1月27日の中国当局による海外への団体旅行禁止などの出国制限の前に、すでに多くの中国人観光客が訪日し、相応の春節効果はあったものと思われるが、問題はその後だ。海外からの観光客増加による経済効果は今や多大なものがある一方、他国の事情で大きくその効果が影響を受ける。何も観光産業だけではなく、経済そのものが他国事情に大きく影響されるのはどの国も同様だろうが、その振れ幅を出来るだけ小さくするには、やはり自国が圧倒的かつ絶対的優勢を保てる資源と技術を持っているかどうかにかかっている。日本はどうなのだろうか。心配になってきた。こういう有事の際には、国力がすべてを左右する。
インバウンドで客室90%以上を占めるホテルがある一方で、国内客中心の宿泊施設もある。地域性が大きくかかわっているが、客層はある程度の多様性に満ちている方が、経営上安全に決まっている。自社にとっての黄金バランスを見極め、それに近づける工夫と経営手腕が問われる。外国人観光客だけに対象を絞ったビジネスが、将来にわたって盤石であり続ける保証などありはしない。まだ自国民のみで経営が成り立つなら、それを良しとする方が安全性は高い。大阪の心斎橋筋の両脇を固める店舗群は、見る限り7割以上がインバウンド用の店に替わった。老舗が軒を連ねていた昔の面影はない。中国人客が姿を消した場合、一体、心斎橋はどうなるのか?予想もつかない。
さて、既存のシティホテルに限らず、外資系ホテルでも、最近は和の風情を積極的に取り入れている。これも増加する外国人客向けの異国情緒提供策だとは思うが、率直に歓迎したい。生活そのものが洋風化した中で、和の美の再認識と採用は、日本文化のルネッサンスともいうべき位置づけもできる。外国人客のみならず日本人客も、周辺で失われた日本の伝統美を、そこで味わうことが出来る。一昔前はホテルといえば、各家庭には無い豪華さと洋風美があこがれの対象だったが、今や自宅の方が便利で快適という人は山ほどいる。水回り然り、寝具然り、インテリア然り。結構、高級な施設でも、どこか使い勝手が悪いものだ。となると雰囲気で勝負となるが、インテリアの豪華さだけでは飽きる。その面でも一流のホテルが、静謐ともいうべき日本の伝統美を取り入れた品格ある雰囲気造りに熱心であるのは、繰り返すが、日本文化のルネッサンスだと胸を張ればよい。