顧客満足の複雑さ118「和風とは風情重視」
ひどい首の凝りに悩んでいる知人がいて、整形外科の医者のアドバイスに従って、枕を固めの低反発型に変えたが、今のところ、かんばしい効果は出ていないと嘆いていた。聞けば、和室に柔らかくてふわふわの布団を敷いて寝ているらしい。即座に、ベッドに変えることを勧めた。それも、固い20センチ以上のマットレス仕様のものに。マットレスは固ければ固いほど、そして厚ければ厚いほど身体への負担が少ない、とは自論だが、経験ではその通りだ。そもそも、首や肩の凝りは、日本人独特の症状だという。欧米人には凝りで悩んでいる人は少ないらしい。様々な理由が考えられ、お箸文化も首や肩を凝らせ、お辞儀も?凝りの元だという説もある。そして、柔らかい和式布団スタイルも、体を沈ませ凝りの大きな原因になっている。
洋式か和式かのいずれが人間が生活しやすいかの議論は、個人の嗜好によるところが大きく正解は出そうにはないが、少なくとも年齢を経るにしたがって、和式での生活は辛くなる傾向がある。食事会の店選定をまかされ、席が座敷だったときは、参加者から堪忍してくれの大合唱に見舞われ、ひたすら恐縮したことを思い出した。多くの人が正座が苦手だったのだ。あの過酷な姿勢は、中高年を過ぎると途端に試練になる。ただ幼い子供連れの場合や、若い人の集まりなどは、その自由さが有難いという声も聞く。洋式か和式かの選択は、トイレでは言わずもがなである。そして履き物は靴文化になって久しいが、かつて日本では、下駄か草履で、遠出の場合でもわらじが主流だった。稲を利用した履き物でなかなかよく考えられてはいるが、足を守るには到底、革仕様にはかなわない。牛肉摂取の習慣が無かった日本では、革技術が育たなかったのも無理はないが、堅牢な革靴と比べて、その弱さは歴然だ。
着物は日本が誇る文化であり愛好者も多いが、一般的な生活では利便性で洋服には勝てない。ボタンやファスナーが無い衣服は、自由な動きを制するからだ。こうしてみると、生活の洋式化は、人体に優しく添う形で進んだともいえる。日本文化が今、改めて見直され、海外でも高評価を受けているのは、あくまで文化としての価値であって、そこに風情を感じるからではないだろうか。風鈴にしても、美しい音色で涼を感じるという風情で、今ではその音が近所への遠慮で気軽に楽しみにくい。床の間、欄間も芸術的で、贅沢文化だ。こうしてみていくと、和風とは風情重視の文化なのだろう。それはそれで自慢していいのだが、現実性には若干欠ける。前にも書いたと思うのだが、旅館式の宿泊施設で、最も自慢できる要素は、和風の風情が惜しげも無く用意された空間の提供である一方で、快適で安全な睡眠を約束するベッド式の寝間の提供でもある。この二重構造こそ、今後の旅館型宿泊施設の未来だと確信している。あとは販売価格努力の域に入るのだろう。
2018年10月1日 間島