顧客満足の複雑さ 104「日本型サービス」
前回と関連するが、日本の労働生産性はOECD加盟先進国と比較して、22位と確実に低い。余り仕事に一生懸命で無い?ように感じられ、陽気で楽天的なイメージの強いイタリアやスペインよりも低いのだ。業種別では飲食・宿泊の労働生産性は加盟国第3位の米国の3割強に過ぎない。ちなみに製造業は約7割で、機械化による省力と効率化に一応の成功は収めている。他業種では小売業が4割弱、運輸は4割強と、日本におけるサービス業の低さが目立つ。
つまり、日本型サービスは対価を吸収し得ていないということになる。サービスに対して正当な金額が払われておらず、結果としてサービス業と称される企業の労働生産性を低くしている。今、問題化している宅配費用の値上げ交渉も、日本で当たり前のサービスと受け取られていた配送サービス自体を、よりハイコストのリターン労働へと改善しようというものだろう。便利で上質のサービスには、消費者にそれ相応の対価を要求して当然なのかもしれない。でないと、いつまで経っても、日本のサービス産業の労働生産性は上がらない。その意味では、ヤマト運輸が開けた風穴の影響は大きいと思う。
「おもてなし」が日本の強みである一方、そこで働く人達の負担を強いることがある。サービスの提供が過剰労働につながっては元も子も無い。以前、お手伝いをしていたチェーン飲食店のオーナーの“サービス向上はコストがかかるものだ”の言葉が、今になって現実的な響きを持つ。接客向上が顧客満足度上昇の要として、どこも力を入れていた時代、その言葉にいささかの違和感を覚えたが、まさにサービスは高く売れるものにもっていかなければ、企業も従業員も消耗する、との指摘であったのだろう。その飲食店は、質の良いサービス提供に見合った対価を得る戦略への転換により、順調にそして着実に業績を伸ばしている。飲食店で初めて週休二日制を導入したのも、そのチェーン店であったと聞いている。
飲食店での過剰労働は黙認されてきたのは事実であって、これは厳しい見方をすれば、経営者の倫理観の欠如にほかならない。サービス提供が値段に合わないか否かのレベル以前に、滅私奉公を強いて当然という経営サイドの甘えが改められない限り、日本のサービス産業における労働生産性は上がらないだろう。それだけに、宅配業者が就労構造にメスを入れたことが、消費者、経営者双方に意識改革をもたらす方向へと誘うことを期待したい。「おもてなし」力を維持しつつ、消費者の適切な負担と従業員の待遇改善を図るのは不可能ではないはずだ。
2017年8月1日 間島