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顧客満足の複雑さ 102「民泊の危うさ 」

顧客満足の複雑さ 102「民泊の危うさ」 

住宅宿泊事業法が今年の3月10日に閣議決定され、順調に進めば2018年1月から施行されるという。違法民泊に対する罰則強化や法の整備が整えられ、日本でもいよいよ、民泊システムが定着すると読んだ企業が、様々な形で関連ビジネスに乗り出している。そこに儲けの匂いがするのだろう。パナソニックは民泊リフォーム事業を展開。ユニバーサルデザインには程遠い日本家屋を民泊対応の形にリフォーム支援しようというものだ。また、阪急不動産は民泊事業の認定手続きをフォローする。京王不動産では自ら民泊用マンションを運営・管理しはじめた。これら民泊を企業がビジネスチャンスととらえる動きは、日本独自の傾向だと思われる。逆に言えば、それほど、日本においては民泊がまだまだ浸透していないという裏返し現象なのだろう。 

さて、世界的には民泊は、規制が厳しくなっているケースの方が多い。カナダ・バンクーバーでは、自宅を30日未満で貸し付けるのを全面禁止した。事実上の民泊禁止だ。シンガポールでも住宅の6カ月以内の貸し付けを禁止。ドイツ・ベルリン市では集合住宅での民泊を2016年5月から全面禁止している。いずれも日本よりはるか以前から民泊が定着してきた国々が、規制強化の道を選びつつある現状は、日本にとって対岸の火事ではない。2020年に2000万人の訪日観光客を期待する政府は、その時点で5万5500室の民泊施設が必要になるという。すべて予測の段階だ。 

欧米大陸間の往来で各国よりまんべんなく安定した観光客を堅持しているヨーロッパ諸国と異なり、地形面から日本ではかなり偏った構図が見られる。また、治安、セキュリィーの面でも独特の問題を抱える日本で、民泊が今後スムーズに浸透していくとは、個人的には考えにくい。前述したように、不動産企業やリフォーム会社などの収益源としてのみ、機能していくような気がする。以前、テレビで紹介していたスぺインの民泊提供者、“日本人に貸したら、部屋が前より綺麗になっていた!”と驚いていたが、それは民泊ワールドでは多分奇跡なのだ。民泊普及に前のめりになる危険性を関連行政は理論的に想定して、規制の強化をより厳しくすることが望まれよう。 

                         2017年6月1日

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顧客満足の複雑さ 101「野菜も主役の仲間に 」飲食担当 間島

顧客満足の複雑さ 101「野菜も主役の仲間に」飲食担当 間島 

一泊旅行ではさほど感じないが、2~3泊以上となると、個人的にはてきめんに野菜摂取不足に陥る。特に魚介をメインにした夕食の場合、刺身や焼き物、煮物と豪華な皿が並ぶものの、野菜料理はせいぜいが、小鉢ものかあしらい程度しか登場しない。会席料理にしても、肉類や魚介類と比べ、野菜がおまけ感覚で供されるケースに多く遭遇する。そして、体からの野菜を食べろコールが聞こえてくるのだ。朝食がブッフェ式だと、サラダや温野菜(あればの話だが)で夕食時の不足を何とか補えるが、和定食式だとまたまた魚介が登場し、まさに前夜のミニ版を見る思いで、なかなかお箸が進まない。 

さて、厚生労働省が推奨する、一人一日350gの野菜摂取目標は、実現しそうにない。日本人の平均野菜摂取量はこの10年大きな変化は無いものの微減状態にあり、2012年で一人一日平均293.6gになっている。60才代の摂取量が最も多いが、それでも約320gで350gの目標には達せず、20才代では250g台という低レベルだ。世界の平均値は超えているらしいが、国別では中国、ギリシャ、スペイン、イタリアなどに大きく水をあけられ、アメリカの340gにもはるかに及ばない。あるリサーチ会社のアンケートでは85%の日本人が、アメリカ人より野菜摂取量が多いと思うと答えたという。日本食はヘルシーで野菜を多く食べているはず、という思い込みが回答に影響を与えたのだろう。現実はシビアだ。ただ日本人は全体に食が細いので、自ずと野菜摂取量も少ないのは仕方がないと言えるし、野菜の価格が諸外国と比べて高いのも確かだ。トマトはイタリアの数倍の値がついているし、その他の野菜類も家計に厳しい。 

そこで旅館などで供される料理に野菜重視の姿勢を取り入れないのはいかにも勿体無い。魚や肉と共に、主役三羽烏にぜひ入れて、魅力ある料理に仕上げてほしいものだと思う。“この夕食で一日分の野菜350gが摂取できます”などの言葉は、健康に留意する現代人には効果的なアピールになるだろう。私事になるが、時折訪問するちゃんぽん店に“野菜350g盛りちゃんぽん”メニューがあり、結構な人気を集めている。煮たり、蒸したり、焼いたりの調理方法による多彩で豊かな野菜料理は、多分料理人の腕が最も試されるのかもしれない。そこには、肉や魚よりはるかに奥深いアイデアとチャレンジ精神が要求されるからだ。 

                          2017年5月1日

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高級路線の定着

顧客満足の複雑さ 100「高級路線の定着」飲食担当 間島 

メディアは格差や貧困や不幸を俎上に載せた経済悲観論がお好みのようだが、経済は景気停滞から穏やかな回復基調にあるらしい。実数として、円安による株価上昇や失業率の低下、企業の生産活動の回復が確かに認められるので、少なくとも悪化はしていないのだろう。ただ家計消費が一進一退であるのに加え、若年層での消費性向の低下が、思い切った景気浮揚につながらない原因と考えられている。 

ここで、経済に弱い者としては、頭が混乱する。外食産業を始め、多くの企業は人手不足状態で、人集めに躍起になっている。外国人雇用推進がのぞまれるわけだ。人手不足は確実に賃金を上昇させるので、勤労者の財布は重くなっているはずだ。それなのに消費が伸び悩んでいる。将来不安からの蓄え志向と、欲しいものが無い状態が、消費の伸びを抑制しているという。ならば、豊かな層にたっぷりと消費していただくほかはないし、新たな魅力ある消費先を開発せねばならない。だれでもそう考える。それも高級一点お買い上げではなく、外に出てきてアクティブに使っていただこうという目論見だ。欲しいものが無いなら、リッチな体験に使っていただこうと。 

そこで、高級や豪華という形容詞を頭に冠した高級路線が登場した。高級バス、高級ホテル、豪華列車、豪華フェリーetc、かつてないほどの人気ぶりである。その中で特に目を引くのが、これまで低価格が魅力で利用者を増やしてきたフェリーと、観光を含む長距離バスの一部高級化だ。どちらもただの移動手段から、乗車そのものを楽しむものへと進化を遂げたと言える。居心地の良さと快適さへのニーズの高さがうかがえる。居心地の悪さと苦労に耐えての移動や旅行が見捨てられつつある画期的な新時代の到来といえるだろう。やはり日本は豊かなのだ。格差はあるものの、楽しむための消費意欲は衰えていない。 

さて、高級ホテルは以前からあるので、これら高級路線の登場の中では特に珍しさは無い。高級宿泊施設の値打ちは、ひとこと、あふれるほどの非日常感と快適感の提供に尽きると思う。非日常感は眺望や料理、空間雰囲気によってもたらされ、快適感は水回りや接客等によってもたらされる。そして今後の快適感の必須課題は、ベッド完備とバリアフリーに違いない。いわゆるユニバーサルルームの新設ないし増設だ。果たして日本人の何パーセントがベッドで寝ているかの統計は知らないが、少なくとも今の子供はベッドが主体で、体がベッド対応になっている。そして高齢者になればなるほどベッド以外での寝起きは辛くなる。日本家屋の良さはしつらえで充分に残せる。畳に布団で寝ることが非日常のお値打ちではないのか、との声もありそうだが、その不便さがいつまで通用するだろう。ニーズの変化は時として新幹線並みに速い。そして高齢者や体の不自由な人が望む潜在需要は、旅行を含め3兆円を下らないとの計測もある。

                          2017年4月1日

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民泊の是非

顧客満足の複雑さ 99「民泊の是非」飲食担当 間島 

訪日観光客数の急増を受けて、民泊新法が今年中に成立しそうな気配だが、こと民泊に関しては業界における是非論がはっきりと分かれているようだ。賛成派は空き部屋や空き家を多く抱える不動産業界で、反対派は正当な営業許可のもとで運営しているホテル旅館業界といった構図になるだろうか。双方の言い分や思惑には相応の説得性があり、是非論を結論づけるのは難しいところだ。ただ、民泊新法制定の動きをもたらしたのは、違法という名の民泊がすでに急激に増えているからで、それならきちんとしたルールや法律を作るべきではないかというのが、主な理由だと思う。 

サンフランシスコに拠点を置く、アメリカの民泊仲介サイト最大手・Airbnbは、世界で80万以上の民泊施設登録数を誇る。部屋を貸したいホストと部屋を借りたいゲストをつなぐウエブサービスが、決済の利便性とホテルには無いユニークさが支持されてか、2008年の創立から10年を待たずして巨大なスケールに成長した。2014年5月には、日本法人Airbnb・Japanが東京に設立され、その2年後にはサイトでの民泊施設登録数は35,724件に達し、100万人以上のゲストが利用する勢いだという。問題はそのほとんどの民泊施設が、現在の日本の法律下においては無許可営業の違法施設になるということで、その現実が前述したように、民泊新法の制定のきっかけになったのだと思われる。正確には住宅宿泊事業法で、家主不在型民泊に管理委託を義務付け、一定の責任を負わそうとする内容だと理解している。 

さて、個人的には民泊に賛成できない。安全安心を問う以前に、単純に日本には根付かないシステムだと思うからだ。農村宿泊体験のグリーンツーリズムが欧米のようには根付かないのと、同じ理由に起因している。ユニバーサルスタンダードではない日本家屋の構造もさることながら、独特の排他性があるからだ。よく言えば潔癖性と同族性とも言えるだろうか。これは日本人が持つ本来の優しさやおもてなし精神とは意を別にし、根本的な深部意識の問題だと思う。ただ、この民泊をビジネス好機ととらえる悪徳業者の跋扈を許さない適切な法律は成立させる必要がある。またトラブル処理に関する保険の完備をサイト運営者に義務づける、日本独自の厳しい法律も急務だろう。いずれにしても、民泊施設の登録数は今後、頭打ちになると思う。都心でもすでに減少傾向を示している。今後、飛躍的に伸びるとは考え難い。それより、カプセルホテルなども含む、質の良い安価で安全な宿泊施設の増設の方が余程望ましい。

                          2017年3月10日

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バリアフリーの本気度

顧客満足の複雑さ 98「バリアフリーの本気度」飲食担当 間島 

今年の三が日も、全国の神社仏閣は多くの初詣客で賑わったことだろう。毎年警察庁から初詣客数全国ランキングなるものが発表され、新聞でも興味深く掲載されていたが、2009年をもって終了した。主催者によって算出の方法が異なり、正確性に疑義があるからという理由らしい。ただ、その後も民間会社によるランキングが発表されており、2017年度は例年一位の明治神宮と二位の成田山新勝寺の初詣客数は、310万人と305万人で殆ど大差ない結果が提示されていた。実際のカウントは難しいと思われるので、どこまでが実数かどうかは分からないが、少なくとも成田山の最近の健闘振りがうかがえる。 

10数年前に、その成田山新勝寺近くに住んでいたことがある。徒歩20分以内で、大本堂まで行くことが出来た。ちょうどその頃に参道は電柱が地中化された。勿論、玉砂利などではなく、舗装道だ。大本堂へはエレベーターが設置されたので、階段が苦手な老母も、新勝寺だけは喜んでついてきた。併設の大庭園は入園フリーで、早春の梅まつり、春の桜、そして秋の紅葉を気軽に楽しめたのも有難かった。千円取ってもおかしくない名庭園だったと記憶している。参拝客の増加は十分に予想される土壌があった。高齢者や体の不自由な人への配慮は、得となって帰ってくるいい例ではないだろうか。 

さて、バリアフリーだ。日本でも都心や公的施設、大型ショッピングセンターなどはほぼバリアフリー化されたが、本気度を疑う施設の何と多いことだろう。駐車場から施設までの道程が砂利道だったり、車椅子用のルートになんども小さな段差があったり、極めつけは施設の要へは階段でどうぞ、という施設もあった。トイレも身障者に配慮の無い施設や飲食店は全国に数え切れない。庭園や公園などで多く見られる、車椅子でOKという砂利道が、どれほど座る側、押す側双方に負担を強いるか、実際に試したことがあるのだろうか。宿泊施設も、バリアフリールームを設けているところは増えてきたが、実際に館内でスムーズに楽しめるかとなると、心細い。まず大浴場には手すりが不足しているし、露天風呂は危険極まりない。水回りも然り。要するにバリアフリーが、まだまだ特別な課題であって、当たり前のこととして浸透していないということだ。小規模ながら、ほぼ完全にバリアフリー化された旅館に泊まったことがあるが、まだ少数派だろう。 

2035年には、65才以上の高齢者が占める割合が確実に3人に1人になる。全館全施設、バリアフリーが当然という、国あげての姿勢と意識改革は、禁煙分煙をどうするかと騒ぐ前に、経済振興のためにも喫緊に必要なことだと思うのだが、道は遠いようだ。

                          2017年2月1日

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IR整備推進法

顧客満足の複雑さ 97「IR整備推進法」飲食担当 間島 

明けましておめでとうございます。今年も世界は、政変も含めて事故・事件が発生し、日本だけが何事も無く平穏というわけにもいかないと思いますが、何とか国民の知恵と国家の的確なかじ取りで、大過ない一年でありますように。 

統合型リゾート施設(IR)整備推進法が昨年12月に成立した。この法案の鍵は何といっても、施設の中にカジノが含まれていることだろう。ゆえに、カジノ 法案と揶揄する論評もあるが、この法案はあくまで、巨大リゾート誘致を目指すために必要とされる厳しい規制を盛り込んだ整備法案であると思う。大阪湾の人工島・夢洲にIR誘致を目指す大阪府としては、まずは最初の関門をクリアしたというところだろうか。 

巨額を投じながら、地元への貢献度が低かった夢洲エリアが活性化するなら言うことはない。カジノやホテル、商業施設、そして多分、エンターテイメント施設の巨大複合施設となると、国内はもとより海外から人は集まるとの期待は大きい。ただ、この法案は日本では賛否両論で、もの騒ぎなものと思われがちだが、カジノを含む巨大施設を持つ国は世界で多くある。だから、まずは自国民が楽しめる施設造りを目指してほしい。一番期待するのは、世界屈指のエンターテイメント集団がこぞってそこで公演をしたいと思わせる、豪華施設の誕生だ。ラスベガスに行かずとも、夢洲で上等なショーが見られるのは、まさに夢のようなことだ。魅力的なレストランの誕生も楽しみではある。 

予想通りにカジノ施設が出来ても全く利用する気は無いから、どのようなものであっても興味は無い。然し、問題になっているギャンブル依存に関しては、現実にパチンコ依存症の人はすでに多く存在するので、IR法案の成立を機会に対策がしっかりと組み込まれるなら良いことだと思う。今まで助けられなかった人を助けることができるかもしれない。つまり、カジノでギャンブル依存症が増えるというより、治療される人が増える可能性の方が高い。また、カジノには非常に厳しい規制と合法化という環境が設定され、多分、死角のないほどに監視カメラが設置されるだろう。金融の流れも細部にわたって把握される。となると、健全かつ大人の優美な遊び場所としての安全な娯楽施設になるかもしれない。もしも問題が発生したなら状況に応じて修正していけばいい。 

                          2017年1月4日

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滞在可能時間とは・・・

顧客満足の複雑さ 96「滞在可能時間とは・・」飲食担当 間島 

飲食店にとって書き入れ時となる12月は、利用者にすれば落ち着かないシステムを余儀なくされる場合がある。なかなか予約が取りにくいのに加え、時間制を強いられるケースが多いからだ。まさに需要と供給のバランス異常がもたらす現象といえるが、一年でこの時期だけ強気のビジネスで押し通していいものだろうかと案じられる。というのは、のど元過ぎれば普段通りのリズムに戻り、客待ち顔状態の店も結構あるはずで、その落差が12月の傲慢な対応のせいかもしれないからだ。以前、その時期に厳格なまでの2時間制(1分たりとも容赦がない)を強いられた経験からいえば、平常営業に戻っても、その店にその後、足を運ぶ気にはならなかった。 

店の言い分も分かる。儲け時に儲けるだけ儲けるのは当然だと。また、多くのお客さんに来てもらうには、時間制をとるのはやむを得ず、忘年会難民のお客さんの得にもなるはずだと。果たしてそうだろうか。今は繁忙期と言えば12月だけで、1月になると大体が客足は落ちる。新年会需要はもはや期待できなくなった。1年のうち、わずか一カ月だけで店の年間売上を稼ぎ出せるわけはなく、その他の月の地道な営業と来客数によって、年間売り上げを保たねばならない。12月だけのせちがらい商法が、本当に店の得になるだろうか。一方、年中を通して時間制を取っている店は、かなりのリーズナブル感と話題性が備わっての商法で成り立っているのだろう。しかしその維持には、相当の努力がいるし、客は話題性にはすぐに飽きてくる。 

やはり、店サイドからの時間制要求は飲食店本来の役目を離脱していると個人的には思う。そこで集い、ともに食し、飲み、交流をあたためて、気が付けば2時間以上も経っているから、店にも迷惑だしそろそろお開きにしようか、となるのが双方にとっても望ましい形だ。しかし、ご時勢は異なるらしい。最近ネットでの飲食店紹介画面で“滞在可能時間”の項目があって、驚いた。“可能”という言葉の持つ意味を、今一度吟味する必要がある。今年の忘年会は、店側の“ごゆっくりなさってください”の言葉に惹かれて予約した。勿論、2時間ほどで、切り上げるつもりだが。

                        2016年12月1日

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伝統文化は旅館で

顧客満足の複雑さ 95「伝統文化は旅館で」飲食担当 間島 

日本の宿泊施設といえばかつては旅館を指していたが、西洋文化の流入によって今や、ホテルが主流になっている。同時進行で国民の住まいも、水回りにしろ、食卓にしろ、和式は影を潜めた。現実に洋式は、日常の身体の動きにとって和式を凌ぐ利便性と快適性がある。然しながら、日本には営々とした日本文化の歴史があり、畳で代表される和式文化の佳さは脈々とDNAに受け継がれていると感じる。洋風スタイルながら多くの家が和室を設けているのも、日本文化を少しは残したいという願望の表れにちがいない。実際、和室は使い回しが利く貴重な空間で、洋式と異なり様々に使い分けることが出来る。 

そして今、各自の住まいに変わって、和式文化を活かす最高の舞台が旅館なのだと思う。清々しい畳を足に感じ、随所に活けられた季節の花を愛で、日本家具と障子や欄間に囲まれて一晩でも二晩でも過ごせる場所は、旅館を置いて他にあろうか。ただ、そこに機能性と利便性が必要とされるのが、現代のニーズの厳しさと言えよう。ただ日本式というだけで、ゲストを満足させリピート客になってもらうことは難しい。過去に宿泊した旅館の中で、上記の完成度を持ったところも数多くはあったが、伝統と革新の融合は並々ならぬセンスと志が要ると拝察する。 

東京で、12階建ての日本旅館が今年の6月に開業したという。再生ビジネスで成長する企業による、新たなコンセプトを持つ宿泊施設の誕生だ。車寄せにかけられた暖簾、全館に敷き詰められたイグサの香り漂う畳に障子など、日本の佳さを随所に織り込んだしつらえは、急増する外国人旅行者の取り込み目的も勿論あろうが、大都会の中で新たな日本旅館を誕生させたことの意義は大きい。日本旅館のノウハウがさらに磨きこまれ、世界で宿泊施設のモデルと認められる日がくるのが楽しみでもある。

                      2016年11月1日

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引き算の美学

顧客満足の複雑さ 94「引き算の美学」飲食担当 間島 

断捨離に関するハウツー本を目にすることが多い。物にあふれ足の踏み場もない部屋が、プロの出番によって、すっきりと生活しやすい空間に変身する。見違えるばかりの変貌ぶりだが、元の木阿弥にもどる可能性も少なくないだろう。極端に乱雑な部屋に至った経緯は、メンタルな部分も複雑に影響しているはずで、単に物をかたづけられるノウハウを伝授されても、根本的な解決に至らないかもしれないからだ。 

断捨離とは意味合いや目的は異なるが、最近、ミニマリストという言葉も良く耳にする。直訳すると“最少限主義者”となり、必要最低限の物で生きる人たちを指す。ミニマリストの生活ぶりを写真で見たことがある。そこには装飾品はもとより、タンス類やカーテンすらも無かった。人によって“最少限”の範囲も異なるだろうから一概には言えないが、個人的には何とも奇妙な住まいに映った。物や色が氾濫するなかで、生活の簡素化・単純化をはかるシンプルライフ志向は理解しやすいが、それとも異なる。かつて流行?した”菜食主義者”と同根の確固たる意志が働いているように思える。 

両者ともに現代の過剰物品・過剰食品を全面拒否する姿勢に、いささかの極端さを感じるが、引き算的発想そのものには深く共鳴を覚える。そして、“引き算の美学”はすでに、様々な分野で浸透している。成熟した社会が行きつく世界観だと言えば言い過ぎだろうか。レストランでもその傾向は顕著に表れている。かつてフレンチレストランで見られた絢爛豪華な内装は姿を消し、いたってシンプルかつ上品なインテリアでまとめられた店が今や趨勢だ。備品にしても、華美な飾り皿から、一様に白い皿へと時代は変化した。白いレースのブラウスとロングスカート姿の女性が客を出迎えていたレストランは、今では白いシャツブラウスと黒のパンツにエプロンをつけた女性が立ち働いている。ビロード調の重厚な椅子が、軽やかな木製の椅子に席を譲ったレストランもある。勿論、シンプル化の傾向に反して、煌びやかさを誇るレストランも無くは無いが、少数派であるのは確かだ。 

さて、流行は繰り返す、というが引き算の魅力が浸透しだした中で、かつての絢爛さがもてはやされる時代はまた廻ってくるのだろうか。色鮮やかな装飾品で飾られた大型宿泊施設の華美なロビーはまだ人を惹きつけ得るだろうか。人の生活自体の簡素化傾向を見るにつけ、提供側も客とのギャップを埋めざるを得なくなっている。逆に、豪華な目のくらむ内装で客を緊張させるレストランや宿泊施設が少しはあってもいいと思うのだが、実際に人気を集めるかどうかは分からないところだ。

                        2016年10月1日

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