顧客満足の複雑さ173「魅力の付加価値」
まさに春爛漫。梅に始まって、桜やつつじと、木々の花や草花が目を楽しませる季節の到来だ。チューリップやバラも主役級の花の貫録を見せつける。春が過ぎてもあじさいは梅雨の時期を彩る人気の花で名勝地が多い。真夏は各花の勢いが消えると思いきや、マリンゴールドやひまわりなどが元気に咲き誇る。どの国も、多種多様の花に恵まれているとは思うが、日本ほど花の種類に恵まれた国は無いのでは、などと誇りたくなる。特に昔から日本人は花を愛でてきた。俳句や和歌の素材にはことかかない豊富さだ。人を集める大きな力をそれぞれの花が持っており、あじさい寺、ほたん寺、コスモス寺などの別称を持ち、シーズンには多くの観光客が押し寄せる神社仏閣もある。群生した花はそれほどの人を惹きつける力を持っている。各地方の一種に特化した花公園は、多くの人でにぎわっている。
以前、寒い季節に泊まった箱根の老舗旅館は、斜面をうまく生かしたつつじの群生した庭を持っていた。5月にはさぞかし美しい風景を見られるのだろう。後に知ったのだが、“つつじの旅館”の別称があった。旅館には広い庭を有するところが結構多い。それぞれの木々は行き届いた剪定がなされているが、強い印象を残す庭はそれほど多くは無い。ほとんどが無難な風景に落ち着いている。訪問客や宿探しの客に特化した印象を植え付ける庭園造りは、強い集客力に結びつくだろうにと、もったいない気もする。かつて、兵庫県川西市での新ホテル企画にたずさわったことがある。広い庭を持てる土地的余裕はなかったが、ホテル周りをバラで囲む、という提案をさせていただいた。バラは手はかかるものの年に二回の開花期があり、バラホテルとして強い印象を与えることができる。幸いオーナーはバラ好きで、提案に好感してもらったがバブルがはじける時期とかさなり、ホテル建築には結びつかなかった。今でもあでやかなバラに囲まれたホテルが目に浮かんでくる。
人を惹きつける要因は様々だが、“並み”では印象に残らないものだ。ユーチューブで、超高級宿泊施設に泊まる映像が多く見られる。ただ部屋や露天風呂の広さは限界があり、料理も想定内のことが多い。その中で目を惹くのは、備品の豪華さであり、特化したサービスなのだ。フリードリンクも大きな魅力で、まさに至れり尽くせり感がある。ただ、最後に価格が提示されると、なるほど感はあるが、なぜか是非訪問したいと思ったことは少ない。根が貧乏性なのだろう。それだけの価格なら別の使い方をするだろう、などとケチなことを計算してしまう。しかし、もしそこに楽園のような庭園が広がっていたなら、そこに身を置きたいと渇望するやもしれない。大阪のホテルラウンジから見る巨大な滝は、目に焼き付いて離れない。城崎の旅館のブッフェ朝食時に、全面窓に広がった見上げるような坂の芝生庭園はいまだに記憶に残る。一方、世界各国から取り寄せた高級素材で内外装を施し、何かと話題を集めたホテルのコーヒーショップラウンジから見た中庭には、ペンペン草が生い茂っていた。すでにその時期には経営に行き詰まっており、荒れた庭が凋落ぶりを如実に表していた。花や自然を技術力で群生式に整え、魅力の付加価値を増すのもあっていい。日本式庭園にこだわらない自由な発想も望まれる。
2023年5月1日 間島