顧客満足の複雑さ179「急速に進むサービスの機械化」
日本は「おもてなし」の国らしいが、自国にいる身としては「おもてなし」を特別に感じることもない。飲食店に入れば確かに、いらっしゃいませ、の挨拶で迎えられ、タダの水やお茶が供され、タダのおしぼりがつくことも多い。来日した外国人にとって、これらは当たり前のことではなく、驚くほどのサービスだと感じるのだと。自国の飲食店では、そのようなサービスなど期待できないうえに、チップまで要求されるからだと。結果、日本の接客は素晴しい、の評価につながるようだ。ただその“おもてなし力”が低下しているのでは、と感じることが多くなった。注文受けの機械化も進んでおり、客との接触が少なくなっている。人手不足とコロナが2重理由であるのは理解できるが、それにしても“そこまでやる?”と思うほどの変化にとまどいを隠せない。
昨年あたりから増えだした、卓上タッチパネルでのオーダー方法は、最初は吃驚したが、スタッフを待たせずに、ゆっくりと画面を見て選べるし、何よリオーダー受けに間違いがない。機械が覚えているから安心?だし、慣れれば便利な側面もあるので今や立派に市民権を得たオーダー方法となりつつある。ところが、最近またまた、2店舗続けて驚く経験をした。まず店側から提示されたQRコードを客側が自分のスマートフォンで読み取り、オーダーはそのアプリを開けてスマートフォンからしてください、というシステムだ。聞けば、対面でメニューを選んでもらう手間を省けるとともに、そもそもメニューブックというものすら無いらしい。両店とも、ファストフードでもなく、ファミリーレストランでもなく、駅前・駅中のスタンド食堂でもなく、街場の一杯飲み屋でもない。立派な店構えのまずまずのレベルの飲食店だ。客にそこまでさせるのは、もはや飲食店としての機能を果たしていないと思う。ゆっくりとメニューブックを見て、不明な点を尋ね、おすすめ料理を聞いて、というスタッフを交えてのメニュー選びから、外食の楽しみは始まる。料理を間違いなく出すだけが飲食店の役割ではない。さてはて、このシステムも、先のタッチパネルでの注文受けと同様に当たり前の方法となるのだろうか。何か、大きな落とし穴が待っているような気がする。加えれば、フロアスタッフのレベル低下が目立つようになった。この仕事は個人レベル差が大きく異なるのは承知しているが、詳しいメニュー情報の提供や客の要望をさりげなくキャッチできるスタッフとの対話を楽しめるのは、もはや超高級店でしか期待できないのかもしれない。
かつて、橋のたもとにひっそりとたたずむこじんまりとしたイタリアレストランに、その人で店はもっていると言わしめた名物フロアスタッフがいた。料理長よりも責任が重く、その知識たるや脱帽ものだった。今や押しも押されぬ人気イタリアレストランとして名をとどろかせており、数店舗を展開する発展ぶりだが、その人がまだいるかどうかは知らない。
2023年11月1日 間島