顧客満足の複雑さ 95「伝統文化は旅館で」飲食担当 間島
日本の宿泊施設といえばかつては旅館を指していたが、西洋文化の流入によって今や、ホテルが主流になっている。同時進行で国民の住まいも、水回りにしろ、食卓にしろ、和式は影を潜めた。現実に洋式は、日常の身体の動きにとって和式を凌ぐ利便性と快適性がある。然しながら、日本には営々とした日本文化の歴史があり、畳で代表される和式文化の佳さは脈々とDNAに受け継がれていると感じる。洋風スタイルながら多くの家が和室を設けているのも、日本文化を少しは残したいという願望の表れにちがいない。実際、和室は使い回しが利く貴重な空間で、洋式と異なり様々に使い分けることが出来る。
そして今、各自の住まいに変わって、和式文化を活かす最高の舞台が旅館なのだと思う。清々しい畳を足に感じ、随所に活けられた季節の花を愛で、日本家具と障子や欄間に囲まれて一晩でも二晩でも過ごせる場所は、旅館を置いて他にあろうか。ただ、そこに機能性と利便性が必要とされるのが、現代のニーズの厳しさと言えよう。ただ日本式というだけで、ゲストを満足させリピート客になってもらうことは難しい。過去に宿泊した旅館の中で、上記の完成度を持ったところも数多くはあったが、伝統と革新の融合は並々ならぬセンスと志が要ると拝察する。
東京で、12階建ての日本旅館が今年の6月に開業したという。再生ビジネスで成長する企業による、新たなコンセプトを持つ宿泊施設の誕生だ。車寄せにかけられた暖簾、全館に敷き詰められたイグサの香り漂う畳に障子など、日本の佳さを随所に織り込んだしつらえは、急増する外国人旅行者の取り込み目的も勿論あろうが、大都会の中で新たな日本旅館を誕生させたことの意義は大きい。日本旅館のノウハウがさらに磨きこまれ、世界で宿泊施設のモデルと認められる日がくるのが楽しみでもある。
2016年11月1日