【第33回】 [ 食環境の現状(12) ]
最近良く耳にするのが、“日本型食事の奨め”です。食の洋風化が食料自給率の低さの一因でもあるので、ここで日本本来のコメ中心の食生活を見直しましょう、という提言のようです。とても耳に心地よく、反論の余地が無いような主張です。でも、この“日本型食事の奨め”とは、具体的にどういった内容を指しての提言なのでしょうか。
[ご飯、薄揚げとネギの味噌汁、納豆、湯豆腐、大根の漬け物]。典型的な日本の朝食です。さて、コメです。かつかつ自給は出来ていますが、消費量が生産量を若干上回っています。外食業界や弁当業界では、安い輸入米を使用しているところも結構あるのが現状です。そして、ネギ、大根は、国内産でまかなえるでしょうが、その他は全滅です。薄揚げ、納豆、豆腐、味噌の主原料である大豆は自給率5.1%という壊滅的な状況にあります。納豆や湯豆腐にかける醤油も、主原料として大豆は欠かせません。大豆の輸入なくして、“日本型食生活”は決して成り立たないのです。
むしろ、クリームシチューの方が優秀です。クリームシチューが洋食かどうかは意見の分かれるところでしょうが、鶏肉や乳製品は自給率60%台を維持していますし、タマネギ、人参、じゃがいもも、まずは優等生野菜です。前述の“典型的日本型食事”より余程、国内産食料でまかなえるというものです。
大体が、食の洋風化といっても、専門レストランは別にして、個々家庭ではせいぜいがハンバーグ、カレー、シチューといったところではないでしょうか。
国産食料のみで成立する“日本型食事”など不可能なのです。自給率の低さの根幹は、大豆、小麦などの基礎食材の国内生産量の絶対的不足にあるということ。つまり、穀物と呼ばれる食材の国内生産量を高めずして、国としての安寧はあり得ません。他国は自国の倉庫でも冷蔵庫でもありません。いっときそれが可能でも、不測の事態発生時(その国の干ばつなどの異常気象や経済情勢の激変)に、自国を犠牲にしてまで、日本に基礎食材を安定供給してくれるでしょうか。
この世界は、貿易の発展が経済の繁栄を約束するのは勿論ですが、こと、食に関しては、他国に頼る危険性をもっと深刻にとらえて、早急に対策を立てねばなりません。これは一つの省の業務ではなく、国家戦略でもってあたらねばならない問題ではないでしょうか。
平成20年3月20日 記