顧客満足の複雑さ192「旅館経営の厳しさ」
いわゆる企業としての「宿泊施設」は、なかなか望ましい利益をあげにくい体質にあるらしいが、その倒産率は突出してはいない。2023年時点で、日本のホテル・旅館総数は5万523軒だが、倒産は67軒で倒産率は約0.1%となっている。飲食店の2023年度倒産件数は930軒で、総数約82万5000軒の0,1%前後と、宿泊施設とほぼ同率だが、閉店・廃業を含めると、はるかに飲食店の廃業率の方が高いものと思われる。宿泊施設は負債過剰による倒産が主であるのに対し、飲食店は売り上げ低下と後継者不足が主な原因の、負債の無い閉店・廃業が非常に多いからだ。その意味では、宿泊施設は、客が入っていても苦しい経営状況があり得るのだ。
宿泊施設の中でも、特に旅館はビジネスホテルなどと比べ、人・モノ・カネが非常に多くかかる。宿泊した方ならお分かりだろうが、部屋・料理・風呂に、パブリックスペースや土産店の保持にかかる人手と経費は半端なものではない。部屋は毎度の清掃に定期的なリニューアル。料理は飲食店と同様の手配が必要で、風呂も毎日のケアが必要だ。備品の管理も半端ではない。そこで起こるのが資金ショートで、今や銀行のお世話になっていない施設を見つけるのは難しいかもしれない。それらを考えると、大手グループの傘下に入り、資金や人手のスケールメリットにより経営がなりたつ方法を選ぶのも、生き残り戦術の手段だとは思う。
そして今、大きな合併ニュースが耳に入ってきた。温泉宿を展開する大江戸温泉物語と湯快リゾートが合併し、全国66施設、日本最大級の温泉宿グループになったという。数的には大江戸が37施設で、29施設の湯快を上回るが、完全平等合併らしい。大江戸の方が若干早いものの、両社ともに2023年前後に、アメリカのファンド会社ローンスターグループに売却されている。望ましい経営状態ではなかったということだ。大江戸と湯快の成り立ちは時期も2001年・2003年とほぼ同じだし、手法も確かによく似ている。その意味では合併に至るまでの親和性は高いのだろうと推察するが、なんとも劇的な収束を見せたものだ。両社の軌跡は異なるものの、経営不振の旅館を受け継いでグループを大きくしてきた手法は同様で、傍目には、両社ともに勢いがありそうだったが、資金面から皮肉なことに両社ともに同じファンド会社の経営下になり、結果として2024年11月に新設持株会社GENSEN HOLDINGSをたちあげて、ひとつになったというわけだ。当面は、湯快リゾートの社長がGENSENの社長の任にあたるという。ただしローンスターグループの傘下であるのは変わりない。利用者にとっては、今回の合併でプランの選択肢が広がり、楽しみが増えるだろうが、各観光地で頑張っている孤高の老舗旅館の存在がますます価値あるものに思えてくる。
2024年12月1日 間島