顧客満足の複雑さ132「集中需要より分散需要」
忘年会シーズンの到来は、祝休日と同じ意味合いで、歓迎しにくい人もいるだろう。理由としては、期間中の市場価格の高騰並びに需要増加による不便さだが、まずは需要増加があって、それが高騰を呼び寄せるという、切っても切れない因果関係がある。11月中旬以降からシーズンが始まり、クリスマス後に終息するのが常で、外食業界の12月の売り上げは毎年、前年比を上回り順調に増えており、この時期のさすがの需要力を見せつけているが、身近な市場では、風景が若干変化しつつあるようにみえる。飲食店の予約が取りやすくなっているのだ。
最近のある新聞の調査で、興味深い結果が出ていた。働く人達へのアンケート調査で、会社関連の忘年会は何回が良いか、という問いに1回が52%、0回が36.3%で、約9割の人が、1回以下が望ましいと答えた。かける時間も2時間が2.3%、1時間半が17.5%と、7割の人が2時間以内が適当とし、3時間派は2%に過ぎなかった。この結果は、会社への帰属心のドライさゆえと、とらえていいのか迷うところだ。これが、プライベートの忘年会だと、2時間が38.3%、2.5時間が18.8%、3時間派も18.3%と健闘している。この状況は、飲食店にとってはあまり有難くはない。多人数が短時間で利用してくれる会社関連の会は、席効率も良く回転率も高く稼ぎどころなのに、減少傾向にあるという。それが前述の予約が取りやすくなった、という現実に結びつく。小人数利用者にとっては歓迎すべき状況になってきたというべきか。
数年前に友人と、ささやかな忘年会をした際、入店すると同時に2時間制と告げられ、1時間30分を過ぎたころには、ラストオーダーを催促され、5分前には精算をうながされるという、何ともあわただしい経験をした。その店は今年は2時間制を取っていないらしい。2時間制にこだわると、個人客は他店に逃げてしまうということだろう。一方、需要増加による価格高騰と予約の取りにくさは、宿泊業界での年末年始、特に31日から1日にかけては歴然と残っている。製造業では需要が増えれば量産することで対応可能だが、宿泊施設は部屋数は一定なので、需要が集中すればするほど、価格高騰に結びつくことになる。高くても売れる、という構図だが、需要集中日が年末年始に限られる、という弱さがある。会社関連の忘年会需要も飲食店と同様に減少傾向にあり、かつてのゴールデンシーズンの勢いは無い。年末年始だけで一年分を稼げれば問題は無いが、やはり一年中、浮き沈みなく集客できるのが望ましい。外から与えられるハイシーズンに頼った商売の危うさを直視し、オフシーズンを安定したオンシーズンへと変えるための知恵や努力が望まれる。地域あげての戦略も必要だが、自店自ら、魅力を創り出すことで季節を問わず集客することは充分に可能だ。飲食店の場合は、クリスマス前の一週間ほどは、多くの店が平常の3割増し以上の値付けの特別コースを組むが、果たして望むべき需要があるのかどうか疑わしい限りだ。それより、むしろこの時期には店から平常価格プラスアルファーのサービスが受けられる、というサプライズの方が余程、客の心を掴めると思うのだが。