顧客満足の複雑さ124「健全な、おもてなし」
日本の労働生産性の低さの遠因として、度が過ぎるサービス文化をあげる意見がぼちぼちと聞かれ始めてきた。日本が誇るおもてなしは、結果として生産性を低めている、ということらしい。ただ、一口にもてなし文化と言っても、様々な要素がからみあっているので、どの部分を削れば、より生産性が上がるのかの明確な分析は難しい。喫緊の具体論で言えば、コンビニを始めとする店舗の24時間営業や、希望時間宅配システムなどがあげられるだろう。消費者にとっての便利さは、ときとして企業と働く人の消耗を生む。果てしの無い消費者のニーズを満足させるために、企業はまい進してきた。まずは自社商品を購入し、利用してもらわなくては利益を獲得できないのは自由市場では当然なので、便利さと、高品質と、安価は、そのための必須条件ととらえられてきた。勿論、その範疇に入らない絶対的価値を持つ商品もあるが、概ねその三つがビジネスの根幹条件だろう。その中で、最も日本的なものは、便利さではないかと思う。その便利さの永続性が、今、問われている。少しは不便さも我慢すべきではないかと。でないと、提供側がもたないと。でもちょっと待ってほしい。コンビニは24時間営業すべきだと、消費者がデモをしたという話は聞かない。過度ともいえるサービスやもてなしは、いつも提供側の忖度と競争心と決意によって実施されている。
そろそろ、おもてなしの意味の転換をはかっても良い。少子化はいや応なく加速する。人的サービスは限界に達する。便利さの象徴ともいえる日本全国にある自動販売機も、定期的に補充する人の手が無ければ成り立たない。訪日外国人観光客目当ての商法も右肩上がりの保証はない。国別に偏り過ぎた現状が、盤石だとは思えない。もっとも直接的に顧客と接する飲食店や宿泊関連も、今後のサービス体制を見直すべき時期かもしれない。健全で合理的ながら利益が出る、おもてなしへの転換だ。客自身の志向の変化に気づかないままに、旧態依然とした接客体制を続けていると結局、新たな顧客層の獲得が出来ずに、じり貧になってしまう恐れがある。一例として、多くの客にとって、部屋食は決して有難いシステムとは捉えられていないし、仲居制度や布団敷きも、ときとして面倒なサービスと思われている。だとすれば、今は大きなチャンスといえよう。接客行動の集約化を図るとともに、施設面への投資によって、未来構図を描くことだ。投資額は、客単価の上昇で回収するのが望ましい。消費傾向の潮流は変化し続けている。
すぐにでも実施すべきは、笑顔とウィットで顧客の満足度を高めることで、言葉は悪いが、このふたつで、かなりの欠点はごまかせる。実際に、このふたつが不足している施設は結構あって、ただただ客をこなしている感は、意外に老舗や旧公的施設に多い。消費者も提供側も、未来にわたって持続実行可能なサービス体制のあり方を、模索することが望まれる。
2019年4月1日 間島