顧客満足の複雑さ 201「情報の多さは是か非か」
本題とは関係ないが、先日、久々に百貨店の一階に入り込んだ。入り込んだ、というのは15分ほどの時間つぶしが目的だったからだ。そして2分後にはそこから逃げ出した。あれほどの強烈な臭いが、フロア中に蔓延しているとは予想もつかなかった。その百貨店の一階は、ほとんどがインバウンド向けの化粧品売り場で埋め尽くされ、強い刺激臭もさることながら、客待ち顔のスタッフのあまりの多さに、買う目的もなしにぶらつく勇気を持ちあわせなかったからだ。その百貨店の上階レストラン街は常に客であふれ、活況を呈しているのに比べ、百貨店の顔ともいうべき1階の、閑散とした風景と不快な臭いは、何かが狂っていると思わざるを得なかった。来年も再来年も変わらぬ風景として定着しているのだろうか。
さて、本題の「情報」は、どのような情報であれ、かつてないほどに蔓延していると思う。特に、グルメ関連の情報は、テレビやSNSをはじめとして、目にしない日はないほどに、あふれている。そこで目にし、耳にする情報は、美味しい店紹介、という単純なものではなく、コスパ最高、とか、顧客満足度高し、などの評価が多い。かつては飲食店関連の専門家のみが発する評価用語であったのが、一般消費者が当たり前のように口にする。それ自体、決して悪いことではないが、何がどうして、コストパフォーマンス(費用対効果)をあげているのか、どこに満足度をあげる要因があるのか、の、ほり下げた視点がなく、ただただ、美味しくてボリュームがあり、安いのが、評価に結びついているように思える。客単価は若干高いものの、それに見合った料理内容と上質な接客やインテリアを詳細に紹介している番組を見かけることは少ない。局スタッフのレベルでは、太刀打ちできないからか?と思いたくなるほどに、テレビは庶民の味方としての情報にあふれている。お笑い芸人がテレビで重用される所以と、根っこの構図は同じだ。
最近、タイパなる言葉も耳にするが、それがタイムパフォーマンスのことだとは知らなかった。時間対効果の略語で、費やした時間に対してどれだけの満足度が得られるか、という意味だろうか。まさに“時は金なり”の現代版用語だ。店側にとって、難しい時代になった。まず情報で落とされ、コスパで落とされ、タイパで落とされる。2024年の飲食店の廃業率は5,6%と他業種と比べ高め推移になっている。また開業後1年以内に約30%が閉店。3年以内に50%が閉店する。結果として10年生存率は30%未満の厳しい業態だ。勿論、閉店の理由は情報の影響だけではなく、様々な要因がからんでいる。そして、新たな飲食店が次から次に出店する。いやがうえにも、話題を集めることが、店の盛衰に大きな影響を及ぼす昨今、今後ますます、世界は情報であふれ、そして立ち止まって吟味・咀嚼することなく、大きな流れに飲み込まれてしまうのではないかと危惧する。情報の多さが、人の幸せにかならずしも結びつくとは限らない、ことの現実も確かにある。 2025年9月1日 間島