顧客満足の複雑さ129「リスク管理が重要」
すこぶる好調に推移していた韓国人訪日観光客が激減しているらしい。言うまでもなく日韓関係悪化が原因だが、日本の受け入れ側業者の中には、危機的状態と憂う声が聞かれる。今まで何もせずとも、旅行業者が送り込んでくれていた顧客がばったりと途絶えたら、それはやはり商売あがったりで死活問題には違いないが、今のところ、7月単体で7.6%減で、約56万人の韓国人観光客が訪日している。日本から韓国への月平均観光客数25万人前後と比べても、倍近い。ただ今後の減少は加速すると見る向きもある。それでなくても、韓国経済そのものの悪化は以前から指摘されており、訪日客数は今回のように極端ではなくても、徐々に減少していっただろうと思われる。
ビジネスは甘くはない。いつなんどき、上顧客を失うことがあっても不思議ではないのだ。そんな例は、飲食店をはじめ枚挙にいとまはない。そのようなときにビジネスの危機を最小限にとどめるのは、日ごろからのリスク管理に他ならない。ある特定の顧客層に頼りすぎないこと。これに尽きる。大阪の中心地に、目立つ看板で有名なカニの飲食店がある。自身も数年前までは、年に何度か訪問していたが、今は行かなくなった。中国と韓国からの観光客で店は占められ、日本人客が入る余地は無い、という噂が広がったからだ。事実、店の前を通ると、エントランスは観光客であふれ、日本人ならちょっと二の足を踏むだろう。これからもこの店は、外国人観光客だけで、充分に儲けられるのだろうか。
違う例もある。市内で何軒か飲食店を経営している知人は、外国人客の受け入れは店のキャパシティーの2割以下に抑えている、という。外国人団体客の申し込みは激増しているが、どんな時でも、つまり空席が多い時でも、2割以下に限定していると。でないと、本来の日本人客が来なくなってしまうからだという。客同士、国籍を超えて仲良くグローバルに楽しめばいいのに、と性善説的な呑気なことを言えるのは、店の未来には責任のひとかけらも無い人達だ。知人の方策は賢明だと思う。リスクの分散はビジネスの基本であって、それを怠ったがために撤去を余儀なくされた例はいくらでもある。旅行業者が送り込む団体客に頼り切っていた巨大旅館は、ことごとくつぶれた。個人客の開拓などする気も起らないほどに、大量の団体客でうるおった時期は、それほど長くは続かなかったということだ。
韓国人観光客の減少は、地方の施設にとっては辛いものだと思う。もともと日本人客でうるおっていたわけでもなかったのが、ここ2~3年、吃驚するほどの外国人観光客が来てくれて、ほっと一息ついた矢先のことで混乱状態にあるだろう。ただこういうことは、いつでも起こりうる。リスク管理の重要性は、時代を超えて、また業種業態を超えて不変であって、今からでも異なる販路拡大に経営者自ら走り回る覚悟で臨めば、また道は思いがけない形で開けるものと信じたい。
2019年9月1日