顧客満足の複雑さ 122 「飲み放題の質」
顧客満足の複雑さ122「飲み放題の質」
東京で焼肉食べ放題の店を訪問した欧米系観光客の男性が、テレビの取材で放った一言が、耳に残った。“こんな店、僕の国にあったなら、一週間でつぶれてしまうよ!”他国でも、ホテル内朝食のビュッフェスタイルなどは根付いているが、日本のように、○○食べ放題や飲み放題、を看板に掲げている一般店は少ない。このシステムは、食事量の上限を想定して、なおかつ儲けが出る計画に基づかないと成立しない。つまり日本人の平均的食事量が基礎となって生み出されたヒット作戦なのだ。先の欧米系男性の国で、もしこのような店があれば、想定した上限を遙かに超えた需要で、たちまち店の経営収支は成り立たなくなってしまう、ということだろう。
飲み放題も同じく、日本でしか通用しない飲食店の経営方法だ。和製英語のフリードリンクは、むしろ食べ放題システムよりもよく目にする。コース料理とセットされていることが多く、いくらかの上積みでドリンク類は飲みたいだけどうぞ、の誘惑はなかなかに強い。どの店もビール、赤白ワイン、日本酒、焼酎、ウイスキーにソフトドリンク類ははずせない定番としてメニューに入れている。ただ、この飲み放題システムの質的内容は、店によってかなりの差異があり、トータルでその店の価値を左右する力を持っていると思う。まずビールだ。飲み放題では、瓶ビール指定の場合が多い。生ビール提供の手間を惜しんでのことだろうが(たまに、客自身がサーバーを使えるところもある)、ここで魅力が半減する。生ビールのフレッシュな味わいを飲食店の魅力のひとつにあげる人も多い。それに瓶ビールについて回る、注ぎ注がれる、という行動が、今や面倒がられる時代だ。極めつけはワインで、飲み放題で用意されるのは、安っぽいグラスでのまずいワインかデカンタで、まれにボトルで供されても、残り物をつぎ足した感が否めないほどのレベルだ。紹興酒を6分ほどに減った状態で出した店もある。日本酒も純米吟醸などは期待できない。
そして今、レベルアップしたフリードリンクが登場し、飲み放題の差別化が浸透しだした。ビールは洒落たグラスでの生ビールOK。ワインは重厚なグラスに、本格的レベルのものを注いで出してくれる。勿論、飲み切った上での追加オーダーになるが、飲んでいて気分が良いのは確かだ。食べ放題でも、飲み放題でも、一般化すればするほど、質の上昇による差別化が始まっていく。高級店やホテル内レストランでも飲み放題を導入するところが増えていくと思われる。日本に来る外国人観光客にとっては、まるで奇跡のようなサービスと映るに違いないが、質の良いフリードリンクシステムは、集客における強い誘引力になるだろう。ドリンク類の利益率の高さは周知の事実なので、質を高めることで出る不利益よりも、集客力アップによる利益を期待する方が効率が良さそうだ。 2019年2月1日 間島