顧客満足の複雑さ 100「高級路線の定着」飲食担当 間島
メディアは格差や貧困や不幸を俎上に載せた経済悲観論がお好みのようだが、経済は景気停滞から穏やかな回復基調にあるらしい。実数として、円安による株価上昇や失業率の低下、企業の生産活動の回復が確かに認められるので、少なくとも悪化はしていないのだろう。ただ家計消費が一進一退であるのに加え、若年層での消費性向の低下が、思い切った景気浮揚につながらない原因と考えられている。
ここで、経済に弱い者としては、頭が混乱する。外食産業を始め、多くの企業は人手不足状態で、人集めに躍起になっている。外国人雇用推進がのぞまれるわけだ。人手不足は確実に賃金を上昇させるので、勤労者の財布は重くなっているはずだ。それなのに消費が伸び悩んでいる。将来不安からの蓄え志向と、欲しいものが無い状態が、消費の伸びを抑制しているという。ならば、豊かな層にたっぷりと消費していただくほかはないし、新たな魅力ある消費先を開発せねばならない。だれでもそう考える。それも高級一点お買い上げではなく、外に出てきてアクティブに使っていただこうという目論見だ。欲しいものが無いなら、リッチな体験に使っていただこうと。
そこで、高級や豪華という形容詞を頭に冠した高級路線が登場した。高級バス、高級ホテル、豪華列車、豪華フェリーetc、かつてないほどの人気ぶりである。その中で特に目を引くのが、これまで低価格が魅力で利用者を増やしてきたフェリーと、観光を含む長距離バスの一部高級化だ。どちらもただの移動手段から、乗車そのものを楽しむものへと進化を遂げたと言える。居心地の良さと快適さへのニーズの高さがうかがえる。居心地の悪さと苦労に耐えての移動や旅行が見捨てられつつある画期的な新時代の到来といえるだろう。やはり日本は豊かなのだ。格差はあるものの、楽しむための消費意欲は衰えていない。
さて、高級ホテルは以前からあるので、これら高級路線の登場の中では特に珍しさは無い。高級宿泊施設の値打ちは、ひとこと、あふれるほどの非日常感と快適感の提供に尽きると思う。非日常感は眺望や料理、空間雰囲気によってもたらされ、快適感は水回りや接客等によってもたらされる。そして今後の快適感の必須課題は、ベッド完備とバリアフリーに違いない。いわゆるユニバーサルルームの新設ないし増設だ。果たして日本人の何パーセントがベッドで寝ているかの統計は知らないが、少なくとも今の子供はベッドが主体で、体がベッド対応になっている。そして高齢者になればなるほどベッド以外での寝起きは辛くなる。日本家屋の良さはしつらえで充分に残せる。畳に布団で寝ることが非日常のお値打ちではないのか、との声もありそうだが、その不便さがいつまで通用するだろう。ニーズの変化は時として新幹線並みに速い。そして高齢者や体の不自由な人が望む潜在需要は、旅行を含め3兆円を下らないとの計測もある。
2017年4月1日